やさしくするポイント(GP)について

・やさしくするポイント
 RPGの主人公たちには、たいていヒットポイント(HP)とかマジックポイント(MP)みたいな数値が割り振られていて、敵から攻撃を受けたり魔法を使ったりするとその値がどんどん減っていく。やくそうを使ったり、宿屋で休んだりすることで回復をすることも可能だけど、つらくきびしいダンジョンの中では減っていく一方で、いかにHPやMPを節約するかがひとつの腕の見せ所でもあったりする。
 それと同じように、私たちにもいくつかのポイントが割り振られているのでないかと思うことがある。体力や集中力についても近似的な考察が可能かもしれないけれど、最近自分に不足していると思うのがやさしくするポイント(Generous Point,GP)である。このポイントは人に気を遣ったり、わがままを聞いてあげたりするたびに減ってゆき、休んだり報われたりするたびに回復する。このポイントの最大値はもとから大きい人もいれば小さい人もいて、さらに経験を積んでレベルアップすることで大きくすることもできる。
 世の中にはGPを大きく消費する行為とあまり消費しない行為があって、たとえば同じ授業を受けるのでも講義より演習のほうがGPを大きく消費するだろう。バイトでも、単純作業よりも接客業のほうが消費しやすいに違いない。あと、手前びいきに言えば読書会の幹事もすごくGPを消費する。
 人に優しくできるていどには限界があるのだ。それは特定の個人に対してでもあるし、不特定の他者全体に対してでもあるのだと思う。それを、好感度や性格の問題にすることから、悲劇は生まれる。

・やさしくするカップ
 たとえば、こういうカップルがいる。彼氏も彼女も、普段はいい人である。人あたりがよくて、優しそうで、いかにも二人が付き合ったら幸せだろうな、という印象を与える。しかし、二人で一緒にいるところをみると、たいてい片方(便宜上彼女ということにしておく)がわがままばかり言っている。なんだか先ほどまでの優しそうな印象はどこかに消えて、修羅の形相に近い。「女王様」みたいな感じだ。対して、彼氏のほうは二人でいるときも同じように優しくて、彼女のわがままを全部聞いてあげる。
 しかし、どんなに寛大な人でもGPには必ず上限があるので、いつかは彼氏もわがままを聞けなくなってくる。たいていわがままというのは徐々にエスカレートしてゆくから尚更だ。「なるほど、それで彼女が振られちゃうんだな」と思ったそこのあなた。そうではないと思う。先述したとおり、GPの欠乏は人に対しての好悪と直接には関係ない。彼氏のほうからすれば、いくら好きだってあまりにひどいわがままは聞けない、というのは当たり前のことなのであって、それで彼女のことが嫌いになったりはしない。
 むしろ、怒ってしまうのは彼女のほうである。「わがままを聞いてもらう」ことを愛のものさしにしてしまっていたりなどすれば、なおさらだ。「ああ、私のことをちゃんと愛していてくれないのね」ということになって、彼女のほうから別れを切り出すということになる。それでショックを受けるのは彼氏のほうだ。あんなにわがままを聞いて尽くしてあげたのに!

・「イヌ」型恋愛より「ネコ」型恋愛を目指せ
 もちろん、前節で書いた例はかなりモデル化されたケースにすぎないので、彼女のほうがちゃんとわがままをセーブしたり、彼氏を許してあげたりできるかもしれないし、彼氏のほうが先に根を上げて別れを切り出すことだってあるだろう。しかし、重要なのは、GPを消費するような行為を愛のものさしするとダメだ、ということだ。
 GPを消費する恋愛は、人間とイヌの関係に似ている。イヌは頑張って芸を覚えて、人から餌をもらおうとする。しかし、別の点では人間とイヌは異なっていて、人間は言葉を理解するのである。イヌはちゃんとご褒美をもらえなければ芸を覚えないだろうが、人間は命令を受ければご褒美がなくても芸をしてしまう。そして、目標を手に入れた飼い主は、餌をやり忘れがちである。
 むしろ、恋愛をするとき人はネコであるべきなのだと思う。気ままに歩いていて、人肌が恋しくなったらすり寄ってゆく。その利己的な暖かさに、愛を感じるほうがいいのだと思う。

・GP不足社会をサヴァイブするために
 以上のことは恋愛だけではなく人間関係全般に言える。「現代日本は気を遣いすぎる社会だ」とか、「ストレス過剰社会だ」というような言論を耳にしたことのない人はいないだろう。そう、みんなGPが不足しているのだ。大学生だって、授業でもバイトでも友達関係でも、さらには恋愛でもGPを消費し、GP回復アイテムであるゆるキャラに群がってみたりする。近頃流行の「癒やし」とはGPを回復するということなのだ。
 前まではやさしくて、わがままを聞いてくれた人が、最近妙に冷たい。そういう人は周りにいないかい?