目線について

子どもに話しかけるとき、わたしたちは目線をあわせる。
時間が過ぎることと目線が変わることは、いつしか無関係になってしまった。あとほんの数年で、この少年と膝をついて話すことはなくなるのだ。ときが経つごとに景色が変わっていくことは、彼にとって当たり前である。世界が驚きで満ちていることに、子どもは驚かない。
背が伸びないことを嘆くのにあきて、わたしたちはどうにか目線を変えようと工夫する。膝をついたり、背伸びをしたりして。世界が退屈で満ちていることに、わたしたちは意外と退屈しない。膝をついたり背伸びをしたりしても、世界がたいして変わって見えないことは、なんとなく知っているのに。