吉野家コピペでもできる読書会レジュメのつくりかた

 以下に書いたレジュメのつくりかたは、質の高いレジュメを作ることよりも、簡単に並の質のレジュメをつくることに力点を置いて執筆されたものです。高度なレジュメをつくりたい方は、参考資料を用意するなり、もうちょいディティールを追求するなり、色々やってください。

 さて、あなたは読書会に参加することになりました。あなたの担当が以下のような文章だったとします。


昨日、近所の吉野家行ったんです。吉野家

そしたらなんか人がめちゃくちゃいっぱいで座れないんです。

で、よく見たらなんか垂れ幕下がってて、150円引き、とか書いてあるんです。

もうね、アホかと。馬鹿かと。

お前らな、150円引き如きで普段来てない吉野家に来てんじゃねーよ、ボケが。

150円だよ、150円。

なんか親子連れとかもいるし。一家4人で吉野家か。おめでてーな。

よーしパパ特盛頼んじゃうぞー、とか言ってるの。もう見てらんない。

お前らな、150円やるからその席空けろと。

吉野家ってのはな、もっと殺伐としてるべきなんだよ。

Uの字テーブルの向かいに座った奴といつ喧嘩が始まってもおかしくない、

刺すか刺されるか、そんな雰囲気がいいんじゃねーか。女子供は、すっこんでろ。

で、やっと座れたかと思ったら、隣の奴が、大盛つゆだくで、とか言ってるんです。

そこでまたぶち切れですよ。

あのな、つゆだくなんてきょうび流行んねーんだよ。ボケが。

得意げな顔して何が、つゆだくで、だ。

お前は本当につゆだくを食いたいのかと問いたい。問い詰めたい。小1時間問い詰めたい

お前、つゆだくって言いたいだけちゃうんかと。

吉野家通の俺から言わせてもらえば今、吉野家通の間での最新流行はやっぱり、

ねぎだく、これだね。

大盛りねぎだくギョク。これが通の頼み方。

ねぎだくってのはねぎが多めに入ってる。そん代わり肉が少なめ。これ。

で、それに大盛りギョク(玉子)。これ最強。

しかしこれを頼むと次から店員にマークされるという危険も伴う、諸刃の剣。

素人にはお薦め出来ない。

まあお前らド素人は、牛鮭【ぎゅうしゃけ】定食でも食ってなさいってこった。

1段階目 段落に番号をふろう!
 手元にあるテキストに番号を振っておくと、自分がレジュメを作る際に便利なだけではなく、発表をするときに「○○段落を見てください」とすぐ参照してもらえるようになるので便利です。レジュメにもまとめた箇所がどこかわかるように番号を併記しておくとよいでしょう。

(1)昨日、近所の吉野家行ったんです。吉野家

(2)そしたらなんか人がめちゃくちゃいっぱいで座れないんです。

(3)で、よく見たらなんか垂れ幕下がってて、150円引き、とか書いてあるんです。

(4)もうね、アホかと。馬鹿かと。

(5)お前らな、150円引き如きで普段来てない吉野家に来てんじゃねーよ、ボケが。

(6)150円だよ、150円。

(7)なんか親子連れとかもいるし。一家4人で吉野家か。おめでてーな。

(8)よーしパパ特盛頼んじゃうぞー、とか言ってるの。もう見てらんない。

(9)お前らな、150円やるからその席空けろと。

(10)吉野家ってのはな、もっと殺伐としてるべきなんだよ。

(11)Uの字テーブルの向かいに座った奴といつ喧嘩が始まってもおかしくない、

(12)刺すか刺されるか、そんな雰囲気がいいんじゃねーか。女子供は、すっこんでろ。

(13)で、やっと座れたかと思ったら、隣の奴が、大盛つゆだくで、とか言ってるんです。

(14)そこでまたぶち切れですよ。

(15)あのな、つゆだくなんてきょうび流行んねーんだよ。ボケが。

(16)得意げな顔して何が、つゆだくで、だ。

(17)お前は本当につゆだくを食いたいのかと問いたい。問い詰めたい。小1時間問い詰めたい

(18)お前、つゆだくって言いたいだけちゃうんかと。

(19)吉野家通の俺から言わせてもらえば今、吉野家通の間での最新流行はやっぱり、

(20)ねぎだく、これだね。

(21)大盛りねぎだくギョク。これが通の頼み方。

(22)ねぎだくってのはねぎが多めに入ってる。そん代わり肉が少なめ。これ。

(23)で、それに大盛りギョク(玉子)。これ最強。

(24)しかしこれを頼むと次から店員にマークされるという危険も伴う、諸刃の剣。

(25)素人にはお薦め出来ない。

(26)まあお前らド素人は、牛鮭【ぎゅうしゃけ】定食でも食ってなさいってこった。

第2段階 それぞれの段落の要約をつくろう
 レジュメは簡潔さが命です。本文より長いレジュメは作る意味がないので、内容を短く要約しなおすことが重要です。また、この際に遠回しでわかりにくい表現は平易なものになおしておくことが必要です。この作業は段落ごとにするとやりやすいでしょう。なぜならば、普通文章を書く人は伝えたい内容ひとつに対して段落をひとつ用意するからです。
 この際、あなた「ほんとは重要なんだけど、この段落で一番いいたいことではないなぁ」という部分をたくさん見つけることになるでしょう。その部分はレジュメでは切り捨てたほうが無難ですが、しかし発表から切り捨てる必要はありません。口頭で補足すればよいのです。

 たとえば、第一段落では以下のように作業をします。

(1)昨日、近所の吉野家行ったんです。吉野家

 この文章のはじめにある「昨日」という情報は、この段落で一番伝えたいことではありません。「近所の」という情報もそうではないでしょう。ただし、「昨日」という情報はこのテキストにあらわれた筆者の怒りがまだ新鮮なものであることを、そして「近所の」という情報は以下で叙述されるストレスが今後も筆者に降りかかる可能性があることを示している点で重要な情報であるので、口頭説明で補足するとよいでしょう。また、最後の「吉野家」という情報の繰り返しも、強調しているだけで意味はありません。
 さらに、レジュメにする際は「吉野家に行った」主体を表すために「私は」という文章を挿入しておくとより親切でしょう。

 この作業を繰り返すと以下のようになります。

(1)私は吉野家に行った
(2)吉野家は混んでいた
(3)なぜならば、値下げ中だったからだ
(4)値下げ中だからと吉野家に来ることは不合理だ
(5)なぜならば、値下げ金額は小さなものにすぎないからだ
(6)値下げ金額は本当に小さなものにすぎない。
(7)ある客は親子連れだったが、親子連れが吉野家に来ることは無配慮である。
(8)親子連れが吉野家で和気藹々としていることは醜悪である。
(9)親子連れが吉野家に来ることは不正である。
(10)なぜならば、吉野家は殺伐としているべきだからだ。
(11)吉野家はいつ喧嘩がおきてもおかしくない場所であるべきだ
(12)よって、女子供は吉野家に来るべきではない。
(13)ある客はつゆだくを注文した。
(14)つゆだくを注文することは不正だ。
(15)なぜならば、つゆだくは流行遅れだからだ。
(16)つゆだくを流行しているものであるかのように注文するのは流行を錯誤している。
(17)また、その客が本当につゆだくを欲しているか疑問である。
(18)流行しているように思われるからという理由だけで欲していないメニューを注文するのは不正である。
(19)今流行しているメニューは、
(20)ねぎだくだ。
(21)大盛りねぎだくギョク、がもっとも正しい注文である。
(22)ねぎだくとは、ねぎが多めで肉が少なめになった牛丼のことである。
(23)ねぎだくかつ大盛り・ギョク(玉子)がもっとおいしい。
(24)しかし、大盛りねぎだくギョクを注文すると店員にマークされる危険がある。
(25)よって、素人は大盛りねぎだくギョクを注文するべきではない。
(26)素人は牛鮭定食を食べるのがよい。

 もとが短すぎるのであまり要約になっていませんが、本来はもとの文章の1/4ないし1/5くらいの分量になるのがベストです。

第3段階 意味段落をつけよう
 レジュメをつくる際は、段落の内容をまとめるだけではなく、段落ごとの相互関係を把握することも重要になります。そのためにはまず、書かれているテーマや批判されている対象によって段落をいくつかのグループ(意味段落)に分けるのがよいでしょう。
 たとえば、上記テキストの(1)(2)(3)は、昨日筆者がした体験をあらわしたものなので、ひとつのグループだと考えられるでしょう。また、意味段落をつけるときはそれぞれの意味段落に名前をつけておくと便利です。

A筆者の体験
(1)私は吉野家に行った
(2)吉野家は混んでいた
(3)なぜならば、値下げ中だったからだ

B値下げ中だからといって吉野家に来る客への批判
(4)値下げ中だからと吉野家に来ることは不合理だ
(5)なぜならば、値下げ金額は小さなものにすぎないからだ
(6)値下げ金額は本当に小さなものにすぎない。

C親子連れで吉野家に来る客への批判
(7)ある客は親子連れだったが、親子連れで吉野家に来ることは不正である。
(8)親子連れが吉野家で和気藹々としていることは醜悪だ。
(9)私は親子連れの帰宅を強く願っている。
(10)なぜならば、吉野家は殺伐としているべきだからだ。
(11)吉野家はいつ喧嘩がおきてもおかしくない場所であるべきだ
(12)よって、女子供は吉野家に来るべきではない。

Dつゆだくを注文する客への批判
(13)ある客はつゆだくを注文した。
(14)つゆだくを注文することは不正だ。
(15)なぜならば、つゆだくは流行遅れだからだ。
(16)つゆだくを流行しているものであるかのように注文するのは流行を錯誤している。
(17)また、その客が本当につゆだくを欲しているか疑問である。
(18)流行しているように思われるからという理由だけで欲していないメニューを注文するのは不正である。

E真に注文すべきメニューの提案
(19)今流行しているメニューは、
(20)ねぎだくだ。
(21)大盛りねぎだくギョク、がもっとも正しい注文である。
(22)ねぎだくとは、ねぎが多めで肉が少なめになった牛丼のことである。
(23)ねぎだくかつ大盛り・ギョク(玉子)がもっとおいしい。

Fねぎだくを頼むデメリット
(24)しかし、大盛りねぎだくギョクを注文すると店員にマークされる危険がある。
(25)よって、素人は大盛りねぎだくギョクを注文するべきではない。
(26)素人は牛鮭定食を食べるのがよい。

第4段階 飾り付け
 あとは各段落をやじるしなどで結び、相互の関係を示したうえで、重要な単語をゴシック体*1や太字などで強調すれば完成です。

A筆者の体験
 筆者が吉野家に行くと(1)、店内が非常に混雑していた(2)
吉野家150円引きセールだったため(3)

B150円引きセールであるからと吉野家へ来る客への批判
 150円引きセールだからと吉野家に来る客は不合理だ(4)
→値下げ幅は150円にすぎないから(5)(6)

C親子連れで吉野家に来る客への批判
 親子連れで吉野家に来ることは無配慮であり(7)、醜悪であり(8)、不正である(9)。
吉野家殺伐としているべきであり(10)(11)、女子供は来るべきでないから(11)

Dつゆだくを頼む客への批判
 つゆだくを頼む客(13)は不正である(14)
→つゆだくは時代遅れであり(15)、つゆだくを頼む客はそれを流行物だと錯誤しているから(16)
→つゆだくを頼む客はつゆだくを真に欲してはいないから(17)(18)

E玄人が頼むべきメニュー
 今流行しているメニュー(19)は、大盛りねぎだくギョクである(20)(21)
→ねぎだくとは、ねぎ多め・肉少なめの牛丼のことであり(22)、大盛りギョクと相性がよい(23)

F素人が頼むべきメニュー
 しかし、ねぎだくを頼むと店員にマークされる恐れがある(24)
→よって素人には危険であり(25)、牛鮭定食を頼むべきである(26)

 このように整理することで、筆者の用いている論理をわかりやすく把握することができます。上記の文章では、筆者が「150円引きだからと吉野家に来るのは不正である」「ねぎだくを頼むと店員にマークされる」などと怪しい主張をしているだけではなく、「流行しているメニューしか注文してはいけない」「注文者が真に欲しているメニューしか注文してはいけない」という反直観的な規範を用いていることがわかるでしょう。
 読者諸氏の楽しい読書会ライフと楽しい吉野家ライフをお祈りします。

*1:紙に印刷する文書を作る際は明朝体を使うのが基本です。