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 朝。安藤馨『統治と功利』読書会についてなおさん(@naorzorzorz)からreplyがくる。9月にやるらしい。行けたら行きたいな。
 この本は1年生の頃に読もうとして挫折した苦い思い出がある。論理記号がズラズラ並んでいて意味がわからない。まあしかし、功利主義やるなら避けては通れない本だろうし、どうにか読んでみよう。

 午前中は引き続き『ナショナリティについて』を読む。ナショナル・アイデンティティを確保するためにはそのアイデンティティを形成してきた「歴史」が必要で、それは事実に基づいている必要はなく、虚偽の「神話」で十分だ*1みたいな話。それこそ日本だったら戦前の歴史教育に使われた記紀とかがそれにあたるのだろう。まさに「神話」だし。
 現代インターネットでいえば、二次大戦に対するいわゆるネット右翼と呼ばれる人たちの主張が、「神話」を形成しようとする動きのわかりやすい例だろう。彼らは二次大戦における軍の戦争犯罪を認めることは、「自虐史観*2の立場にたって日本のナショナル・アイデンティティを崩壊に追い込むものであって、道徳的に不正であると主張する*3。しかし、彼らの主張するような国粋主義的な歴史観を保持することは、歴史に対する健全な反省を阻害するものにもなりかねず、その不利益と国家の紐帯を維持することの利益とは比較衡量されなくてはならない。日本の負の歴史を認めたとしても、それ以外の歴史から魅力的なナショナル・アイデンティティを形成することは十分可能であるのだから、やはりネット右翼の主張は正当化しえないように思う。

 昼ごはんを食べて、池袋へ。春雨さんと会う。しばし街をさまよって、ドトールへ。抹茶ラテうまい。どうせ数十円しか変わらないのだし、Lサイズを頼めばよかったかな。夏は喉がかわく。
 「人を嫌うとは」みたいな話をしていた気がする。中島義道かよ。人は結局のところ色んな人に動物的に懐いたり、あるいは嫌ったりしていて、人の色んな行動は全てそれに還元されるような気がする、というような話をしたら、春雨さんに「私は利己的にしか振舞っていない」ということを言われた。こういうホッブズ*4的な見解はある種の説得力があるけれど……、どうなんだろう。やっぱり愛着とかそういうのは私たちの行動に関わっているような気がする。
 春雨さんは意外となんというか、(こんなこと言っちゃいけないのかもしれないけれど)女の子女の子した人だった。ジェンダーから自由にはなれないということか。埋め込まれているのだ。

統治と功利

統治と功利

ナショナリティについて

ナショナリティについて

ひとを“嫌う”ということ (角川文庫)

ひとを“嫌う”ということ (角川文庫)

*1:というか、ミラーによればネーションの歴史はそれが「ある特定の方法で物事を解釈し、またある物事の重要性を強調するが、他の物事の重要性は否定するものであるかぎり、必ずや神話的要素を含まざるをえない」(66p)。そして、「ナショナルな物語の歴史的な正確さに関しては、それ自体の正しさが重要なのではなく、それがネーションの現在の自己理解にどのような影響を与えているかが重要」(68p)であって、正しい歴史認識をすることに内在的価値は存在せず、外在的価値のみが認められる。これは穏健な立場だと思う。

*2:ネット右翼たちが「自虐史観」という言葉を使う背景には、「左派がネーションの負の歴史を教育することで、自虐的なナショナル・アイデンティティを形成しようとしているのでないか」という懐疑があるように思う。ある歴史的事実の存在を認めることと、それをナショナル・アイデンティティを構成するものとしてネーションの歴史に組み込むこととは全く別のことである。たとえば、戦国時代に臣下が大名に謀反を起こす「下克上」の風潮があったことは広く知られているが、それを日本のナショナル・アイデンティティであるとみなす人は、(よほど反権威的な嗜好を持った人以外は)いないであろう。そもそも日本の左派はナショナル・アイデンティティの重要性を否定してコスモポリタニズム的な立場にたつ傾向があるのだから、このような分析は間違っている。

*3:「ある歴史認識が真であることを認めると自分たちのナショナル・アイデンティティが崩壊する」ことを根拠にしてその歴史認識を偽であると主張するのは、「そのような歴史的事実があったかいなか」という本来の論点を逸しているように思われるかもしれない。しかし、ミラーのように正しい歴史認識の内在的価値を否定する立場に立てば、ナショナル・アイデンティティを保持するために事実を曲げて「神話」を形成することは、必ずしも不正ではない。

*4:「人間は利己主義的な生物である」と主張しながら一方で貧民に施しをしていることを咎められ、「貧しい人の姿を見るのは自分にとって苦痛だから施しをしたのだ」と答えたとされる。