死にかけうさぎは電気ねずみの夢を見るか

 去年の夏、ある女の子に告白して振られた。「君はダメ男すぎて、今のままじゃ付き合えない。髪を切って、バイトもはじめなさい」と言われて、決死の勇気をしぼりだして*1髪を切ってアルバイトも探してみたりしたのだけど、結局その子を追いかけるのもバイトを探すのもやめてしまった。ことあるごとに聞く「バイトしなよ」という台詞が、なんだか暗に「私に貢ぎなさい」と言っているように見えたのだ。慣れないことをしたせいで、疲れて穿ち過ぎていたのだろうと思う。
 それから一年経って、またその子と会ったりskypeをしたりすることが増えた。やっぱり「バイトしたら?」と言われることが多かったのだけど、去年の失敗が妙にトラウマになっていたせいか、まごついたまま時がすぎていった。しばらくすると、あんまり連絡もこなくなった。

 ある日、その子に彼氏ができたという噂を聞いた。詳細はわからないけれど、少し前まで付き合っていた人がいたようだから、よりを戻したのかもしれない。俺は突然「アルバイトをはじめなくてはいけない」という使命感にかられて、今の職場に応募をした。褒めてくれる人は、もういないのに。
 布団をかぶって、あの子がくれたぬいぐるみを抱きしめる。眠りからさめたら、バイトに出かけなければならない。貢ぐもなにも、俺はあの子にお金を使わせてばかりだったじゃないか。
 電気ねずみのからだは、不思議とあたたかかった。

*1:決死の勇気をしぼりださないと、他の人が普通にやっていることができないのである。俺が社会不適合者たるゆえんだ。