台所の戸棚

 台所の戸棚に、( ・`ω・´)シャキーンの顔文字の書いてあるカップがひとつだけ入っている。小さすぎて実用には不便だけれど、鑑賞するにはなんだか絵面が間抜けすぎて、ほとんど取り出すことはない。いつも奥のほうから、寂しげな凛々しい目をこちらへ向けている。

 このカップをもらったのは、去年のクリスマスだった。俺はその頃付き合っていた彼女のために、女の子向けのお店へ行って紺色のシュシュを用意した。さして高いものではなかったけれど、彼女の綺麗な髪によく似合うだろうと思った。
 それなのに、彼女は俺のためにプレゼントを用意していなかった。「当日本人に聞いたほうが合理的じゃない?」という台詞はとても彼女らしかったけれど、頑張って用意した俺はなんだったのだろうと悲しくなった。なんと彼女は、自分が「シュシュがほしい」と言ったことさえ忘れていたのだ。
 そうして後楽園の雑貨屋さんで買ってもらったのが、顔文字の書いてあるこのカップだった。長いこと家にあるけれど、家族もまさか女の子からのプレゼントだとは思っていないだろう。ロマンティックなものではないけれど、それでも彼女が選んでくれた贈り物を俺は心から喜んだ。

 こんな小さいカップにスティックシュガーを2つも入れて、あまくてあったかいあの冬を今夜だけ思い出す。溶けきれないでカップの底に残った砂糖は、コーヒーと混ざってちょっぴり苦かった。